救急外来での非外傷性ショック、低血圧患者のPoCUSは転帰を改善するのか?

Does Point-of-Care Ultrasonography Improve Clinical Outcomes in Emergency Department Patients With Undifferentiated Hypotension? An International Randomized Controlled Trial From the SHoC-ED Investigators.

Atkinson PR, Milne J, Diegelmann L, Lamprecht H, Stander M, Lussier D, et al.

Ann Emerg Med. 2018 Jun 2. pii: S0196-0644(18)30325-1. doi: 10.1016/j.annemergmed.2018.04.002. PMID: 29866583

救急外来での非外傷性の低血圧あるいはショック患者の死亡率は高い。早期認識と適切な初期治療が低血圧の遷延や組織低酸素の遷延を改善し、死亡率を減らす。救急外来における非外傷性の低血圧あるいはショック患者に対して、Point-of-Care Ultrasonography (PoCUS)は原因検索と診断精度に優れるとされるが、前向きに比較研究を行った研究はなく、生死の転帰を改善させるかどうかはわかっていない。

本研究は救急外来を受診し、原因が特定されていない、収縮期血圧<100mmHgあるいはshock index>1.0で定義された非外傷性のショックと低血圧の成人患者を対象とし、Standard careに加えて早期のプロトコル化されたPoCUSをした介入群とStandard careのみをした対照群で、30日間の生存率もしくは退院が改善するかを比較した国際他施設オープンラベルRCT。
重症患者で超音波をしないことによる倫理的懸念から上記の組入・除外基準にした所、中間解析で、Control群の予想死亡率が低く、差を検出することができないと判断され早期中止となった。

PoCUSは対照群と比較して、30日間の生存率もしくは退院(76.5% vs 76.1%, difference 0.35%; 95% binomial CI -10.2% to 11%)は改善しなかった。よって、救急外来を受診した、原因が特定されていない収縮期血圧<100とShock Indexで規定されたショック患者に対して、プロトコル化されたPoCUSは臨床的アウトカムを改善しなかった。
この結果の原因として、PoCUSを用いなくても血液検査や画像検査から異常所見を見つけることができる点と、平均的な救急医は標準的な介入後の再評価などを通してショックをマネジメントできる点があげられる。また、PoCUSは心原性や閉塞性、出血性ショックの原因をみつけるのに適しているが、ショックの原因の半数以上が敗血症であるような血圧と心拍数で規定されたショックでは差が生じにくい。

内的妥当性として、ベースの患者背景は両群で同等である点、inclusion criteriaのショックの定義が血圧と心拍数のみで定められており不十分である点、本研究でのstandard careの内容が不明である点、サンプルサイズが不足している点、ITT解析でない点、非盲検によるバイアスがある点、欠測の扱いが不明である点があげられる。外的妥当性として、日本のERとアメリカのERではその制度が大きく異なる点、ショックの原因の半数以上が敗血症でエコーの効果が直接的でない点があげられる。

軽症ショック患者に対してはPoCUSは有効ではないかもしれないが、より重症なショック患者に対しては今回の研究ではPoCUSが有効であるかわからない。PoCUSは非侵襲性で診断的価値は高いと考えられるため、重症で焦る時ほどプロトコル化されたPoCUSを確実に行えるようトレーニングをしていくつもりである。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科