ER X ICU 合同Journal Club

亀田ERでは、定期的にICUと合同Journal clubを行なっています。
ERとICUはほぼ一体になり診療連携をしており、合同JournalClubを通して、最新のエビデンスを共有し、互いの診療をよりシームレスに行うことを目的としています。

「出血性ショックリスクのある患者のヘリコプター搬送中に血漿投与を行うことの有用性について」

J.L. Sperry, MD
Prehospital Plasma during Air Medical Transport in Trauma Patients at Risk for Hemorrhagic Shock; PAMPer trial
DOI: 10.1056/NEJMoa1802345/PMID:30040935

外傷診療においてdamage control strategyが提唱されて20年以上が経過しているが、これまでは主に病院到着後の対応に視点が当てられていた。近年になって、病院前の対応として早期の血漿輸血に焦点が当てられるようになり2014年から2017年にかけて3つの臨床試験がアメリカで行われた。その一つであるPAMPer trialを紹介することとした。

出血性ショックのリスクのある患者をヘリコプター搬送中に血漿2単位を投与する介入群と標準治療(晶質液投与と2単位のRBC投与)群に分けて30日死亡率を比較したpragmatic multicenter cluster randomized phase3 trialである。27の航空医療基地から直接現場へ、または一旦収容された提携病院へ向かい9つのLevel 1外傷センターへ搬送された患者を対象にしている。2-6基地ごとを1つのグループとして、それぞれのグループごとに2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月と期間を定めて1ヶ月毎に介入群または標準治療群に割り付けられるというクラスターデザインであった。介入群の30日死亡率を8%、標準治療群の30日死亡率を22%として14%の差を検出することを目的としてα 0.05、power 0.88、Intracluster correlation coefficient 0.05として合計564人の患者が選出された。最終的に介入群が230人に対して標準治療群が271人割り付けられた。30日死亡率は介入群vs標準治療群で23%vs33% difference,-9.85 95%CI -18.6 to -1.0;P=0.03;ICC 0.02となり血漿投与群で死亡率が低かった。Kaplan-Meier curveでは無作為化3時間後から両群が分離しはじめ、30日経過するまでこの分離は続き、血漿投与群で死亡率が低かった(Log-rank chi-square test, 5.70 ;P=0.02)。Subgroup解析においては輸血量や外傷の性状(鈍的または鋭的)、搬送時間等で層別化し血漿投与群と標準治療群で死亡率を比較したがいずれも有意差を認めたものはなく、overallにおいて血漿投与群がより死亡率改善に寄与するという結果となった。二次評価項目では特に輸血関連の有害事象で差を検出することはなく、PT ratioのみが血漿投与群の方で低値となった(1.3 vs 1.2;P<0.001)。

まとめると、介入群は開始後30日の時点での死亡率を標準治療群に比較して有意に死亡率を下げることが判明した。多臓器不全,ALI/ARDS,院内肺炎などの炎症誘発合併症を増加させることはなかった。バイタルサインを基準にした単純な組入基準と限定された除外基準でありpragmatic designとなっていること、外傷センターに搬送される前に外傷の種類が完全に区別されていないため、様々な種類と重症度の外傷患者が組み入れられていること、subgroup解析においても血漿投与群で利益があり、これは結果の一般化可能性を示していることなどを利点としている。

介入がマスクできないため治療バイアスが潜在的に含まれる、現場からの直接搬送と提携病院からの搬送患者の割合は同等であるが、紹介患者の場合は紹介バイアスがかかる可能性を秘めている、多施設研究のためにそれぞれの施設において標準治療があり、投与する輸血製剤の量や種類は様々であるということなどがこの試験の欠点であると考えられるとして論文は締めくくられていた。

血漿2単位(約600ml)ではあるが投与後にTEGを使用しての凝固線溶系のデータを採取して標準治療群とのデータ比較を行っているが、PT ratio以外に血漿投与群で改善があったものはなく、その他のデータでは差がなかった。これは測定されていない生化学的な何かが死亡率改善に関与している可能性と、単に臨床試験の中に含まれるバイアスにより差が生じていただけという可能性が考えられるが、今後の研究で明らかになってくるかもしれない。
血漿投与という介入のためにallocation concealmentを行うことができず、医療者が恣意的に適応患者を除外してしまう可能性があることは懸念されることではあるがデザイン上の限界であると考えられる。また、外傷診療で注目されているトラネキサム酸の有無や体温測定の有無など結果に影響する可能性のある交絡因子も存在しているがその詳細は記述されていない。
アメリカでのヘリコプター事情で実行可能となった臨床試験ではあるが、日本においては解凍血漿の保存期間の問題や使用しなかった場合の血液製剤の破棄など倫理面に関与する部分もあるため実現困難である。しかし、受傷早期に血漿を投与することで予後を改善する可能性は残されているため今後発表される臨床試験も考慮していくとplasma firstの概念が確立されるかもしれない。

post110.jpg


Tag:

このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科