外傷性出血性ショックの患者を都市部のレベル1外傷センターへの到着前に血漿輸血をすることが有効か

Plasma-first resuscitation to treat haemorrhagic shock during emergency ground transportation in an urban area: a randomised trial.Moore HB, et al. Lancet.2018Jul28;392(10144):283-291. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31553-8. Epub2018Jul20.

血漿輸血は外傷後の止血蘇生に必要不可欠であるが、投与のタイミングについては議論の的となっていたため今回の臨床試験が行われた。本研究は、外傷性出血性ショックの患者を都市部のレベル1外傷センターへ搬送(到着)前に血漿輸血をすることが有効かどうかを検証したランダム化比較試験(COMBAT: The Control of Major Bleeding After Trauma Trial)である。本臨床研究は、2014年4月1日から2017年3月31日にかけて、DHMC(Denver Health Medical Center;デンバー健康医療センター)に拠点を置く全33台の救急車を使用して施行された、プラグマティックランダム化比較試験であり、144人の患者が血漿群とプラセボ(生理食塩水)群に無作為に割り付けられた。ランダム化はそれぞれの勤務開始前に密閉された保冷バッグを事前に載せておくことでなされた。連続した外傷性ショック患者(定義:収縮期血圧70以下または,収縮期血圧71-90 +脈拍108以上)が訓練を受けた救急隊員によって外傷現場で適格性を判断され、Inclusion criteriaに該当した場合は、血漿またはダミーの保冷剤が準備された救急車に無作為に割り付けられた。
<Inclusion criteria>
・age>18 years・sBP(収縮期血圧)≦70またはsBP71-90+ HR(脈拍数)≧108<Exclusion criteria>刑務所入り、妊娠、頭部への銃撃単独、ランダム化前に心静止または心肺蘇生状態、血液製剤に反対、家族が患者の登録に反対などまた両群の年齢(歳)はPlasma:33.0(25.0-51.0), Control:32.5(25.5-42.0)と差がなく、他の背景因子(BMI, 性別,部位別AISスコアなど)についても同様に差がなかった。ランダム化やマスキングに関しては、研究コーディネータによってつくられた計画に沿って血漿とダミー(凍った水)が無作為に救急車に載せられ、さらにそれらがアルミニウムの小容器に入れられ封印された状態であった。(それらは患者登録やデータ解析に関与していない研究スタッフによって行われた。)その中身が凍結血漿(AB型2単位)であった場合は救急車であらかじめ搭載されていた解凍の装備を使用して解凍後、患者に投与された。一方で中身がダミー(凍った水)であった場合は生理食塩水が投与された。なお、2群間の均衡を保つのに当初研究者たちは生理食塩水の投与量を800mL未満と考えていたが、実際にはうまくいかず血行動態に基づいて投与された。結果はITT; intention-to-treat解析(144例)、as-treated解析(128例)でなされた。(ここでの主な除外理由は、18歳未満・同意なしであった。)
Primary outcomeは、外傷後28日以内の死亡率であり、血漿投与群とプラセボ(生理食塩水)群で有意差は認めなかった(血漿群:15%, プラセボ群:10%, p=0.37)。この結果を受けてこれ以上の研究継続は無益と判断されたため、本来150の登録が計画されていたが144人時点で本研究は中止となった。
Secondary outcomeとしては、24時間死亡率、28日以内の急性肺障害(ALI;Acute Lung Injury), intensive-care-free daysなどが評価されたが全体としては差を認めず、むしろComposite outcome(28日の多臓器不全または死亡) やINR>1.3の割合など、Plasma群の方が不利な結果もあった。
・Composite outcome[Plasma14(21%) vs. Control 7(12%), Effect size (95%CI): 1.85(0.80 to 4.26)]・INR>1.3[Plasma 28/63(44%) vs. Control 14/58(24%), Effect size (95%CI): 1.84(1.08 to 3.14)] なお搬送に要した時間は、Plasma:19分(16-23), Control:16分(14-22), p=0.04と差がなかった。
本臨床研究でのLimitationとしては、単一施設、到着すれば直ちに血漿輸血が可能という設備の整った施設、Control群は解凍する手間がない、一旦容器を開けさえすれば救急隊員は中身がわかってしまう、バイタルサインのみが外傷性出血の指標とされており、低血圧+頻脈の要因が必ずしも外傷性ショック単独によるものとは限らない、など挙げられる。
Implicationとして、外傷性出血性ショック患者において都市部の3次救急病院へ搬送される場合は、血漿の病院前投与は通常治療に上回るものではない、と言える。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科