院外心肺停止患者に対するアドレナリン投与におけるRCT

Gavin D. Perkins, M.D. 
A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest  PARAMEDIC2
July 18, 2018 DOI: 10.1056/NEJMoa1806842

二次救命処置における薬剤のエビデンスは乏しい。今回、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)の求めから、Epinephrineの有効性と安全性を確認する大規模RCTが英国で行われた。5つの救急搬送部門が参加した多施設2重盲検プラセボ対照群ランダム比較試験である。

対象は16歳以上の院外心肺停止患者で救急隊員によって2次救命処置を行い、初回蘇生(CPRと除細動)で反応せずアドレナリンが必要な患者とした。介入はEpinephrine1mgを3〜5分毎に投与する群と同様の外見にした生食シリンジを同間隔で投与する群を比較した。主要評価項目は30日生存率、副次評価項目は退院時の良好な神経学的アウトカム(modifeid Rankin scaleが3点以下)の生存率、入院まで、退院時、3ヶ月生存率とした。ランダム化はコンピュータによって、主解析はmodifeidITT解析で行い、subgoup解析も事前に設定した。生存率においては各既知の要因を固定効果として回帰分析を行った。サンプルサイズは当初の計画ではEpinephrineグループに対するリスク比を1.25(95%CI1.07to1.46)(※リスク比1.25は30日生存率 Epinephrine群が7.5%、プレセボ群が6.0%に相当)とし合計8000人とした。中間解析を3ヶ月毎に設定し、途中中止基準も事前に設けた。結果は2014年12月から2017年10月の期間に10623人がエントリーし、8014人が登録され、Epinephrine群に4015人、プラセボ群に3999人が割り付けられた。主要評価項目の30日生存率の粗オッズ比が1.39(1.06−1.82)、調整オッズ比1.47(1.09-1.97)とEpinephrine群で生存率が高かった。副次評価項目は入院まで生存率、退院までの生存率、3ヶ月生存率、退院時、3ヶ月時点での良好な神経学的アウトカムの生存率もEpinephrine群で良好な結果となった。Subgroup解析においても年齢、目撃あり、救急隊到着時間等で層別化し生存率を比較したが、どれも主要評価項目の結果と同じ傾向であった。以上から著者はEpinephrineが生存率を改善させると結論づけた。しかし、我々が一番関心のある神経学的結果に関しては事前設定からは確認出来ない解釈が加えられている。本文に示されている副次評価項目の良好な神経学的アウトカムの生存率は数字上ではEpinephrine群の方が良好であることが示されているのに対し、結論においてはグラフで示した通り退院時生存者に対する不良な神経学的アウトカム患者の割合に議論が乗り換えられ、Epinephrineが退院時の神経学的アウトカムにおいて重度神経学的障害(modifeid Rankin scale4,5)を負う患者の割合が多かった(31%vs17.8%)としている。これは事後につじつまを合わせた解釈(チェリーピッキング)と見做されてもしかなたがない。また、中間解析の時点で生存率が当初の予定よりも低く、サンプル数を計算し直した結果24000人必要となったが、実現可能性と精度、妥当性をもって8000人のまま試験は継続された経緯があり、検出力不足も懸念される。そしてこれまでEpinephrineが生存率を改善させる強固な証拠がない以上、神経学的アウトカムが副次評価項目にせざる得なかった試験であるため確乎とした答えはだせない。今研究にて生存率を改善させることがはっきりした以上、倫理的に今後同様の研究が行われることはないかもしれない。そのため我々は今研究結果とこれまでのデータを利用し全人的見地から今後のプラクティスを決めなければならないだろう。Pro/conがあって当然である。医療経済、文化的軸もふくめ議論される問題であり、医療関係者だけでなく、社会全体でこの結果をどう解釈していくべきか討論されることを期待したい。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
救命救急センター センター長/救命救急科 部長 不動寺 純明

【専門分野】
救急医療、一般外科、外傷外科