2022.04.19 抄読会

1.担当:河野先生

Tranexamic Acid for the Prevention of Blood Loss after Cesarean Delivery
トラネキサム酸による帝王切開術後の出血抑制効果

N Engl J Med 2021; 384:1623-1634
DOI: 10.1056/NEJMoa2028788

背景
トラネキサム酸の予防投与は、いくつかの小規模試験において帝王切開分娩後の産褥出血の減少との関連が言われているが、その有益性の証拠はまだ十分得られていない。

方法
多施設共同二重盲検無作為化比較試験において、妊娠週数 34 以上で分娩前または分娩中に帝王切開を行う女性を、予防的子宮収縮薬に合わせて、トラネキサム酸(1 g)またはプラセボの静脈内投与に割り付けた。主要アウトカムは産後出血とし、計算上の推定出血量が 1000mlを超えるか、分娩後 2 日以内に赤血球輸血を受けたものと定義した。副次的アウトカムは、重量測定による推定出血量、医療従事者が評価した臨床的に重大な産後出血、子宮収縮剤の追加使用、産後輸血であった。

結果 
無作為化を受けた 4551 例の女性のうち、4431 例が帝王切開による分娩を受け、そのうち 4153 例(93.7%)で主要アウトカムのデータが得られた。主要アウトカムは、トラネキサム酸群では 2086 例中 556 例(26.7%)に、プラセボ群では 2067 例中 653 例(31.6%)に認められた(補正リスク比、0.84;95%信頼区間 [CI]、0.75〜0.94;P=0.003 )。重量測定による推定出血量、医療従事者が評価した臨床的に重大な産後出血、子宮収縮薬の追加使用、産後輸血を行った女性の割合に、群間における有意差はみられなかった。出産後3カ月間の血栓塞栓事象は、トラネキサム酸を投与された女性(2049人中8人)の0.4%と、プラセボを投与された女性(2056人中2人)の0.1%に発生した(調整リスク比、4.01;95% CI、0.85〜18.92;P=0.08 )。

結論
帝王切開分娩を受け、予防的子宮収縮薬を投与された女性において、トラネキサム酸投与は、プラセボと比較して、2 日目までの計算上の推定出血量が 1000 ml を超えるか赤血球輸血の発生率が有意に低かったが、出血関連の副次的アウトカムの発生率が低くなることはなかった。

議論
血栓塞栓イベントが多く、血栓傾向の患者に使用するときには慎重に検討すべきである。安価な薬剤で、大量出血時に使用しても良いだろうが、外科的出血時には有意差が出るほどの効果があるとは考えにくい。
また、今回のアウトカムは経膣分娩などを除外し、Modified intention-to-treat解析になってしまったが、Intention-to-treat解析での結果が発表されておらず、論文結果の解釈に注意が必要である。


2.担当:竹原先生

Evaluation of the Duration of Preanesthesia Consultation: Prospective and Multicenter Study
麻酔術前診察の所要時間を評価する前向き多施設共同研究

Anesthesia & Analgesia 2022; 134 - Issue 3 - p 496-504
doi: 10.1213/ANE.0000000000005889

背景
待機的外科手術を受ける患者の麻酔術前診察(PAC)に割り当てられる時間は、外来枠を最適化するための重要な要因である。本研究の主な目的は、PACの所要時間を予測するモデルを構築することである。

方法
2016年1月から2018年6月に4つの異なる病院でPACを受けた1007人の患者を前向きに調査した。PACの全期間を予測するために一般線形モデルを当てはめた。二次モデルでは、臨床評価に費やされた時間と、情報を伝えるために割り当てられた時間を予測した。

結果
データに大きな矛盾がある40名の患者を除外した結果、PACの平均(標準偏差[SD])全体の時間は11.2(5.8)分であり、6.8(4.1)分の情報提供と4.4(2.7)分の臨床評価に分かれた。16歳以上の患者924名ではそれぞれ11.4(5.9)分、6.9(4.2)分、4.4(2.7)分、小児43名ではそれぞれ8.3(2.3)分、4.3(1.8)分、4.1(1.8)分となった。米国麻酔科学会(ASA)スコア、併存疾患の数または治療、手術別、状況(外来、通常の入院、集中治療室)は、PAC時間と有意な相関があった。成人患者924名において、オーバーフィッティングで調整したモデルのR2は、PACの総時間で0.47、臨床評価時間で0.45、情報提供時間で0.24であった。推定残留標準偏差は、それぞれ、4.3分、3.1分、2.7分であった。

結論
PACの全体時間を説明するモデルの予測性能は平均的であり(R2 = 0.47)、各診察に充てる時間を個別化することによって診察の組織を最適化するために、さらなる研究で確認すべきである。

議論
当科も現在術前外来を週5、常に満杯の状態で行っている。患者情報に合わせて、必要な時間を事前に正確に予測できるツールがもしあれば資源の有効活用につながるに違いない。さらに改善点としては、患者様に手術説明のビデオをタブレットで事前に視聴して頂いた上で、質問等を診察時にするという形であれば、さらなる時間の節約になりそうである。

亀田総合病院 麻酔科 後期研修医 金

このサイトの監修者

亀田総合病院
麻酔科主任部長 小林 収

【専門分野】
麻酔、集中治療