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第6話 漢方は長く飲まないと…?

2022/8/1

これまで漢方医学の成り立ちや歴史についてお話してきました。

さて、現代では漢方はずっと長く飲み続けないと効かないとか、体質を変える・免疫を上げるなど長い目で見ないと効果がわからない、と思われている方が多いでしょう。しかし漢方のバイブル的存在である『傷寒論』は、もともとは短期間で効果をあげることが必要な急性感染症の治療マニュアルという色合いの濃い書物です。

いま我々が風邪や急性の下痢症などを漢方で治療するときには、1日飲んで良くならないようなら、多くの場合それは治療がうまくいったとは考えません。風邪のひき始めなら半日くらい、なんなら1~2回の内服で改善するのが当然、というくらい治療対象によっては即効性があるものです。

たしかに傷寒論は急性感染症の経過について記された書物です。急性の病気との戦いの中で現れる様々なパターンの闘病反応やその経過、それに対してどのような生薬の組み合わせを用いると病気の経過がどのように変化するのか? がつぶさに観察されています。この「病的な刺激や侵襲によって人の体に引き起こされる反応」は割と普遍的なようで、同じような闘病反応が急性感染症に限らず慢性の経過の病態にも同様に起こることもあるようです。

例えば風邪で有名な葛根湯(かっこんとう)は、傷寒論には「項背強ばること几几(きき)」、つまり「首が凝ってツラく、まるで水鳥が飛び立つ時のように首を反らして耐えている状態」に使うと書かれていますが、これを応用して慢性的に首や肩が凝って仕方がないという人に葛根湯を飲んでもらうと良くなる人がいます。

かつて傷寒論が主たる治療対象としていた悪性の感染症が何だったのかは定かではありません。チフスであったとも言われていますが、そのようなタチの悪い細菌感染症のほとんどは衛生状態の劇的な改善と抗生物質により、現在では我々の住む日本のような先進国ではほぼ淘汰されてきました。スペイン風邪のような新型インフルエンザであったという説もあります。このようなウイルスによる感染症には現代の医学でもまだまだ良い治療法はないことも多いのですが、新型ウイルスの感染症として猛威を奮った昨今のコロナ禍も、人類の叡智が結集された新型ワクチンであるmRNAワクチンで沈静化の目処がたちました。今の時代、このような急性感染症の治療の主役は当然ながらもはや漢方ではありません。

ただ、数万年前から磨き抜かれてきた「人間の状態を総体的に把握し、それを良い方向に変化させる」技術は、現代医学的には把握できない心身の不調を整え、生体の持っている本来の能力を発揮させる方法として今活用されるようになっています。

体調が良くなり、気持ちが明るくなり、やる気が出てくる…。なにかの症状を治すためと当科を訪れた患者さまの少なからぬ方々が、「なんだか日々の生活が楽になった」とおっしゃいます。いわゆるQOL(quality of life:日々の生活の快適さ)を高めるということは、実は現在の医学にとってはけっこう難問なのですが、漢方は患者さまの心身の状態を最適化(コンディショニング)することが治療の主眼なので、自然とQOLが高まる場合が多いようです。

ただ…体調が良くなるとご飯が美味しくなってしまって、体重が増えてしまう人がいるのがちょっと困りものなのですが…。

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東洋医学診療科 部長 南澤 潔

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