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諸刃の剣”のはなし 〜副作用を抑え、安全に酸素を利用する〜

2016/1/1

酸素は、生命を維持するためにはなくてはならないものですが、圧力が高い環境で純酸素を呼吸すると、治療に使える様々な効果が出てきます。これまでご紹介してきた高気圧酸素の効果は以下のようになります。

  1. 1 .体内にあるガスを圧力がかかった分だけ小さくする。
  2. 2 .Oxygen Window(酸素窓)を開いて組織から窒素を追い出す。
  3. 3 .血液に含まれる酸素量の増加あるいは血液中の酸素の圧力が高くなり、組織に移動する酸素が増える。
  4. 4 .血流が再開した後におきる障害(虚血再灌流障害)を抑える。
  5. 5 .酸化というストレスに強くなり、炎症を抑える。
  6. 6 .白血球が細菌を処理する能力を上げ、抗菌薬が効きやすくなり、菌の毒素産生を抑える。
  7. 7 .新しい血管が作られ、傷が治りやすくなる。
  8. 8 .血管を収縮させ末端の血液循環を改善してむくみを抑える。


現在では様々な研究により、高気圧酸素の効果について解明されてきています。しかしながら、治療に使われ始めた20世紀初頭前後の欧米では、なぜ効果があ るのかという前に、いろいろな疾患に試されて効果があるがゆえに、過大評価されて手当たり次第に使われていました。その象徴として1928年には病院の建物自体を高気圧とする直径20mの5階建ての高気圧治療病院が米国のクリーブランドに建設されています。しかし、評価もなく無秩序に使用することの批判から治療として用いられなくなり1937年にはその病院も解体されました。


一方で、酸素には重大な副作用があることが100年以上前から指摘されてきています。過剰な酸素はその圧力と時間により体のあらゆる臓器に毒性を持つよう になります。酸素中毒として臨床上対象となる主な臓器は、脳と肺になります。脳は高い圧力の酸素により短時間で症状が出現し、肺はある程度時間が経過した後に出てきます。

酸素中毒で実際起きている機序はいまだよく分かっていませんが、毒性のある活性酸素が多く作られるようになり、それに対抗する防御機構がうまく働かないために細胞に障害をおこすと考えられています。

脳の酸素中毒は、トンネルの中から出口を見たように視野が狭くなり(トンネル・ビジョン)、耳鳴り、吐き気、部分的な筋肉のけいれん(特に顔面)、気分の 変調、めまいなどの症状が出現し、放置すると全身性のけいれん発作に至ります。これらの症状は、通常の大気圧下の純酸素呼吸では発生しませんが、気圧があ る程度高いときに純酸素を呼吸すると時間経過とともに出現します。すなわち酸素を使用する潜水や高気圧酸素治療時に問題となります。

酸素中毒の発現は、酸素の吸入時間と圧力の高さに依りますが、吸入ガスを純酸素から空気に短時間だけ変える間歇的酸素吸入(エア・ブレイク)により回復効果が得られ、発症までの時間が延長します。そのため、比較的高い圧力の酸素を使用する減圧症の治療などでは、5分あるいは15分のエア・ブレイクが設けら れています。亀田総合病院の高気圧酸素治療装置では、マスクに送られるガスが酸素から空気にプログラム通りに変わるため、酸素マスクを外すことなしにエア・ブレイクが可能です。


けいれんを引き起こすほどの圧力でなくても酸素を長時間呼吸し続けると肺酸素中毒の症状が出現するようになります。はじめは息を吸った時に不快感がでて、胸が灼けるような感じや痛みが次第に増強し、空咳から痰の混じった咳となり、放っておくと呼吸が困難になってきます。

この酸素中毒を防ぐには、長い時間のエア・ブレイクが必要となります。連日で高気圧酸素治療を行う場合には、その使用圧力と時間にも依りますが、3日連続治療のあと1日休む日を設けたり、5日連続治療のあと2日休んだりします。


高い圧力の酸素を呼吸することによる副作用は、脳や肺以外にも現れることがありますが、適切に酸素量や治療間隔を管理して治療が行われます。副作用の適切 な管理と平行して、高気圧酸素治療の科学的な臨床応用が本格的に始まったのは1960年代からであり、今日でも高気圧酸素療法の適応と最適な治療法についての研究が続けられています。

高気圧酸素治療外来のご案内

救命救急科・高気圧酸素治療室 鈴木 信哉

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