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新しい血管が出来てくる! 〜放射線でダメージを受けた組織や糖尿病性潰瘍に〜

2015/12/1

婦人科や泌尿器科領域のがんに対して放射線治療を受けられた方で、治療終了して6ヶ月以上経過した後になって出てくる副作用(晩期障害)に直腸潰瘍や膀胱出血があります。放射線による直腸潰瘍では出血や感染を繰り返し起こして、場合によっては直腸に穴があいてしまい人工肛門を作る手術が必要になったりします。膀胱出血では、尿の色が赤くなり程度がひどくなると血の塊が尿道を塞いで尿が出なくなってしまうことがあり、出血のコントロールは難しく貧血がひどくなったりします。

ある線量以上の放射線が照射されると、血管の内側を覆っている細胞(血管内皮細胞)に炎症が起きて血管の中が狭くなって閉塞してしまったり、線維化という変化を起こしてくると、網目状の細かな血管(毛細血管)は異常に拡張し、ちょっとした刺激でも出血しやすくなります。組織は潰瘍を形成するようになり、進行すると壊死を起こしてしまいます。


高気圧酸素治療(HBO)では、高分圧の酸素を吸入することにより大量に溶け込んだ酸素を血流の少なくなった組織に供給するため、酸素が少ないことによる組織の状態は一時的に良くなりますが、効果はこれに留まらず、HBOを10回、20回と続けることにより、長期的な効果により新しい血管がどんどん出来てくるようになります。潰瘍は修復され、拡張した毛細血管は正常化して、直腸や膀胱の表面の粘膜はきれいになってきます。

難治性の創傷(きず)に対して高気圧酸素治療は有効であり、欧米では放射線による晩期障害の他に、よく利用されているものに糖尿病による皮膚潰瘍があります。


細胞はストレスを受けたときに、回復を促進するため種々の分化能を持った幹/前駆細胞(SPCs)が骨髄や脂肪織などから出てくるようになります。その一つに血管内皮形成に関わる血管内皮前駆細胞(EPC:Endothelial Progenitor Cell)があります。この細胞がでてくると新しい血管が作られるようになり、傷が治っていくのです。もともと糖尿病性潰瘍や下肢虚血性疾患などの、細胞にストレスがかかる病態ではEPCの数および質の低下があるといわれます。そのため、近年では再生医療としてEPCを体内から採取し、血流が少ない傷害部位に移植する治療法が研究され、末梢血幹細胞(CD34 陽性細胞)などの移植治療が開発されてきています。


高気圧酸素治療では、高分圧の酸素吸入という酸化ストレスによりEPCが出てきて、血管新生による傷の修復が促進されることが最近分かってきています。3気圧以上の酸素では、酸化ストレスが度を超してしまい、ひどい場合には、全身けいれんなどのいわゆる酸素中毒を引き起こしてしまいます。ですが、適度の酸化ストレスがある程度続くと、上手い具合にEPCが動員されるようになります。高気圧酸素によって動員された前駆細胞は、血管新生の増進に関わる複数の因子(HIFs:hypoxia inducible factorsやTrx:thioredoxinなど)を多く含んでおり、難治性の糖尿病性潰瘍や放射線による晩期障害を改善させます。


高気圧酸素治療は、治療圧力として2.0気圧から2.5気圧で90分から2時間の治療で1日1回、週5回実施され、治療回数は20回から40回ほどが標準的な方法となりますが、症例によっては60回以上、4ヶ月以上かかることもあります。下肢切断のリスクが高い糖尿病性壊疽の場合、糖尿病コントロール、壊死組織を取り除く処置(デブリドマン)、血管再建術やVAC療法(Vacuum Assisted Closure療法:陰圧閉鎖療法)などとともに、高気圧酸素治療は併用すべき強力な治療手段となります。

【参考文献】
(注1)Feldmeier JJ.:Hyperbaric oxygen therapy and delayed radiation injuries (soft tissue and bony necrosis): 2012 update. Undersea Hyperb Med. 2012 Nov-Dec;39(6):1121-39. Review.
(注2)Heyboer M et al.: CD34+/CD45-dim stem cell mobilization by hyperbaric oxygen - changes with oxygen dosage. Stem Cell Res. 2014 May;12(3):638-45.
(注3)Fosen KM, Stephen R. Thom SR: Hyperbaric Oxygen, Vasculogenic Stem Cells, and Wound Healing. Antioxid Redox Signal. 2014 Oct 10; 21(11):1634-1647.
(注4)Warriner RA 3rd, Hopf HW. The effect of hyperbaric oxygen in the enhancement of healing in selected problem wounds. Undersea Hyperb Med. 2012 Sep-Oct;39(5):923-35. Review.
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救命救急科・高気圧酸素治療室 鈴木 信哉

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