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ガス壊疽以外の感染症にも適応あり 〜弱った白血球機能の回復〜

2015/11/15

ガス壊疽(えそ)は、外傷や腸管の手術などを契機としてクロストリジウム属の菌が筋肉組織に侵入して起こす感染症であり、突然の局所疼痛で発症します。

菌からは20種類以上の毒素が産生され、そのうちαトキシンは溶血と組織の壊死を引き起こします。血小板や多形核白血球(好中球)が破壊されて広範に毛細血管が障害され、しばしば致命的となるため、発症が疑われたら速やかな処置が求められます。

αトキシンの産生を止め*、菌の発育を抑制**するには、できるだけ早く高気圧酸素治療(HBO)を行う必要があり、デブリドマンといわれる壊死組織を取り除く外科処置と抗生剤投与の3者により対処されます。
HBOにより壊死組織と生存組織の境目が明瞭になるため、HBOの合間にデブリドマンを実施すると壊死組織を効率的に除くことが可能となります。

*感染組織の酸素分圧を250mmHg以上に高めるとαトキシンの産生を止めることができますが、300mmHg以上の酸素分圧を達成するためには3絶対気圧(303.98kPa)のHBOが必要となります。
**原因菌であるクロストリジウム属の菌は、偏性嫌気性菌といわれ、スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼのような活性酸素を不活化する酵素をあまり持っていないため、高気圧酸素で作られる活性酸素により菌の発育を抑えることができます。


ガス壊疽とは区別される、壊死性筋膜炎という軟部組織感染症(メディア等で「ヒト食いバクテリア(the flesh-eating bacteria)感染」と俗に言われているもの)があります。A、C、G群のβ溶血性連鎖球菌が検出される例が多いのですが、半数以上に混合感染があり、相乗作用により劇症化するといわれ、陰部の重症感染症であるフルニエ壊疽ではエンテロバクテリア属、D群連鎖球菌、バクテロイデス・フラジリスのようなクロストリジウム属以外の嫌気性菌などによる混合感染が起きやすいといわれています。

皮下の柔らかい組織で感染が起こると、好気性菌や嫌気性菌の代謝産物により組織は酸性化して嫌気性菌が育ちやすい環境となります。その後、深部の筋膜の浮腫と壊死により血流が低下すると、低酸素により多形核白血球(好中球)が機能不全を引き起こして菌を貪食する機能が落ち、急速に感染が進行します。局所の低酸素は一方で、白血球接着分子(インテグリン)の発現を促して好中球が血管内皮細胞に接着し、そこで障害が惹起され、急速に壊死が進行します。

壊死性筋膜炎に対し、HBOは標準的外科処置(デブリドマンと抗生剤投与)の補助的治療であり、取って代わるものではありませんが、虚血となった組織に酸素を供給して、局所の低酸素で機能不全に陥っている好中球の機能を改善させることに加え、インテグリンの発現も抑えるため、好中球による内皮細胞障害を防ぐことができ、感染の広がりや壊死の進行を止めるようになります。また、高気圧酸素により抗生剤の菌細胞膜に対する透過性を増強させる作用もあることから、抗生剤投与期間中はHBOの併用が勧められます。

このように重症感染症に対してHBOが強力な治療手段となることから、難治性感染症となりやすい骨髄炎***にも積極的に用いられ、デブリドマン直後からHBOを開始して、培養結果に基づく抗生剤投与と共に20~40回ほど継続して治療されます。脊椎、頭蓋骨、胸骨の骨髄炎のように、広範なデブリドマンや人工物除去が難しい症例では、広範なデブリドマンに先がけてのHBOが推奨され、デブリドマン範囲を限局することが可能となります。

***骨髄が感染で低酸素となり、骨髄内酸素分圧が30~40mmHgとなると好中球の菌貪食能が破綻しますが、2気圧の純酸素吸入により感染した骨髄の酸素分 圧は16±3.8mmHg(大気圧空気呼吸)から198.4±19.7mmHgまで上昇するため、好中球の機能改善が期待される一方、大気圧下の酸素投与 では17.5±2.7mmHgと効果が期待できないことが動物実験で報告されています。
【参考文献】
(注1)Bakker DJ: Clostridial myonecrosis(Gas gangrene). Undersea Hyperb Med.2012;39(3):731-7.
(注2)Jacoby IJ: Necrotizing soft tissue infections. Undersea Hyperb Med.2012;39(3):739-52.
(注3)Hart B: Osteomyelitis (refractory) with literature review supplement. Undersea Hyperb Med. 2012;39(3):753-75.
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救命救急科・高気圧酸素治療室 鈴木 信哉

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