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気泡がないはずなのに、なぜ効くの? 〜時間経過とともに炎症が深刻に〜

2015/10/1

肺過膨張による動脈ガス塞栓症(空気塞栓症)も、過大な窒素ガス負荷に加え減圧手順の省略や急減圧・急浮上により過剰発生した気泡によって起きる減圧症も、気泡が引き起こす病態として基本的なところは同じです。臨床的にも両者の区別がつきにくい症例があるため、動脈ガス塞栓症(AGE:arterial gas embolism)と減圧症(DCS:decompression sickness)の二つを合わせて減圧障害(DCI:decompression illness)と言います。
 


水面に浮上後、空気塞栓により意識障害を起こしたダイバーが、程なく意識を取り戻し、何でもなかったようになることがありますが、それもつかの間、再び意識がなくなったり痙攣を起こしたりして増悪することがあります。また、空気塞栓症の再圧治療では、加圧により一旦症状の改善がみられるも、治療中に再び悪くなることが時にあり、重症化する例に度々見られます。

このように2次増悪をきたす機序は以下のように説明されています。気泡そのものの一次的な影響がでる初期では、血管閉塞や組織の機械的な圧迫により症状が出現します。その後、気泡が消失して血流が再開しますが、この血流再開により障害が新たに生じてきます。この病態を虚血再灌流(きょけつさいかんりゅう)障害(ischemia reperfusion injury)といいます。血管の内側を構成する血管内皮細胞や白血球などから炎症関連の物質が出てきて障害を起こします。実はこれが重症化の原因となっています(注2)(注3)。このほかに、血管内皮細胞は気泡そのものに触れることにより障害を受けることが明らかになっており(注4)、遷延して気泡が存在する場合には時間が経つほど障害が進むものと考えられます。

虚血再灌流障害は、減圧障害の発症から1~2時間の早い段階で起きるとも言われますので、重症化を防ぐために2時間以内に酸素再圧治療(減圧障害の高気圧酸素治療で単に再圧治療ともいいます)を行う必要があります。

発症から数時間経ってしまって虚血再灌流障害により重篤となっても、酸素再圧治療表の延長による積極的な継続治療により改善することが多い、あるいは、発症から1週間以上経って気泡自体が存在しないであろうと思われる時期においても、酸素再圧治療により短時間で症状が軽減するという事実があります。これは、高気圧酸素では、障害を受けた組織に豊富な酸素を供給することにより創傷治癒を促しますが、これとは別の作用として虚血再灌流障害の抑制により炎症を抑える効果があるためなのです。

血流が再開すると、虚血によって障害を受けた血管内皮に好中球という種類の白血球がくっついて炎症性物質を放出して虚血再灌流障害をおこしますが、高気圧酸素は好中球が血管内皮に接着するのに関与するβ2インテグリンという分子の発現を抑えるので、虚血再灌流障害が起きにくくなるわけです。

高気圧酸素による虚血再灌流障害の抑制は、減圧障害以外にも脳、心臓、肺、肝臓、骨格筋、腸管などの障害に有効であり、急性一酸化炭素中毒による脳症緩和の根拠になっています(注5)。
 

【引用文献】
(注1)Francis TJ et al.: Central nervous system decompression sickness: latency of 1070 human cases. Undersea Biomed Res. 1988 Nov;15(6):403-17.
(注2)Dutka AJ: Serious decompression injury: Pharmacologic aids to treatment.   In Moon RE., Sheffield PJ, eds. Treatment of decompression illness, Forty-fifth Workshop of the Undersea and Hyperbaric Medical Society, 1996, 127-135.
(注3)Gorman DF: The treatment of arterial gas embolism. In Moon RE., Sheffield PJ, eds.
Treatment of decompression illness, Forty-fifth Workshop of the Undersea and Hyperbaric Medical Society, 96-100, 1996.
(注4)Kobayashi S, Crooks SD, Eckmann DM.: In vitro surfactant mitigation of gas bubble contact-induced endothelial cell death. Undersea Hyperb Med. 2011 Jan- Feb;38(1):27-39.
(注5)Camporesi EM, Bosco G: Mechanism of action. In Hyperbaric Oxygen Therapy Indications. 13ed. Weaver LK chair and editor. Undersea and Hyperbaric Medical Society, North Palm Beach, Best Publishing Company, 2014,362-372.
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救命救急科・高気圧酸素治療室 鈴木 信哉

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