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窒素を洗い出せ Oxygen Window(酸素の窓)を開く ~“ふかし”をやってはいけません!〜

2015/9/15

"ふかし”は、潜水業界でつかう言葉で、潜水により減圧症の症状が出たときに再潜水して症状を緩和させる方法を言います。

潜水で体内に蓄積した窒素が、水面への上昇に伴い過飽和状態となり、組織や血管内で気泡化して減圧症を引き起こします。治療では、この気泡を消して障害を除くために高圧酸素が使用されますが、“ふかし”では空気を使うため治療効率がとても悪くなります。

“ふかし”では潜った深さだけ圧力が体にかかりますが、10m潜ると1気圧増えて大気圧の2倍、すなわち2絶対気圧(ATA: atmospheres absolute)になります。そうすると気泡の容積は、2分の1になり(高校の物理で習うボイルの法則です)、症状が和らぎます。さらに症状を軽くするには、気泡をもっと小さくする必要がありますが、圧力を加えて小さくする方法には限界があるので、ある程度圧力のかかったところで気泡が小さくなるのを待つことになります。

体内の気泡は、中の窒素ガスが組織へ移動して小さくなりますが、その移動には気泡と組織間の圧較差が必要になります。大気圧下でも、酸素が二酸化炭素に変換された分だけ圧較差が生じて、ごくゆっくり気泡は小さくなります(図①)。気泡内のガス圧は環境圧と同じですが、“ふかし”直後では、組織内ガス圧は気泡内ガス圧よりも低いので気泡は縮小していきます(図②)。しかし、肺からは高くなった環境圧と同じガス圧の血液が送られるため、時間とともに組織内ガス圧が上がり、気泡から組織へのガス移動が少なくなって行きます(図③)。

酸素が代謝により二酸化炭素に変換されて生じた圧較差は、Oxygen Window(酸素の窓)といわれ、組織に送られる酸素の分圧により大きさが決まります。“ふかし”では空気を使うために、Oxygen Windowが小さく、過剰な窒素の洗い出しは遅く、気泡を消滅させるのにかなりの時間がかかります。他方、高圧空気を呼吸した分だけ余計な窒素が組織に入ってしまうため“、ふかし”終わった浮上後に、ガスが組織から逆移動して気泡が再拡大し、症状がぶり返したり、増悪することがあります(図④)。ですから、生半可な“ふかし”は決してやってはいけないのです。


酸素の分圧が高くなるとOxygen Windowは大きく開きます。酸素が多ければ窒素の洗い出しが促進されるのです。図の下段は、高気圧酸素治療の場合を示しています。加圧分の気泡と組織間の圧差に加え、Oxygen Windowが開いて圧差が大きくなって組織内の窒素は肺へ運ばれ(図⑤)、時間が経つほど抜けて行き、気泡と組織間の圧較差は更に大きくなり、気泡の縮小は加速されます(図⑥)。仮に気泡を残して治療が終了したとしても、組織内の窒素圧が低いため気泡縮小効果は持続します。

このOxygen Windowを開くことによるガスの洗い出しは、腸管イレウス内のガス縮小、急性一酸化炭素中毒の一酸化炭素の排出にも威力を発揮します。Oxygen Windowは、酸素の分圧が高ければ高いほど制限なく開くかのようにみえますが、およそ3気圧の酸素までとなっています。なぜ、3気圧なのかは、第5話でお話しいたします。

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救命救急科・高気圧酸素治療室 鈴木 信哉

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