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骨盤臓器脱(性器脱)

1. 骨盤臓器脱とは

女性の骨盤内にある膀胱、子宮、膣、直腸などが本来の位置から下垂して膣から脱出してくる疾患です。脱出している臓器・部位に応じて膀胱瘤、子宮脱、腸瘤、直腸瘤、などと呼ばれますが、骨盤臓器脱はそれらの総称です。以前は性器脱、あるいは単に子宮脱といわれましたが、最近海外の論文などではこの病態に対してpelvic organ prolapse ; POPとの名称が用いられる機会が多くなり、日本でもpelvic organ prolapseの日本語訳としての骨盤臓器脱という名称が用いられるようになりました。

2. 骨盤臓器脱の症状

骨盤臓器脱の症状としては、まず脱出の程度に応じて膣に何かがはさまった違和感、圧迫される感じがあります。膀胱瘤があれば尿が出にくい、尿が近い、尿が漏れる、残尿感があるなど排尿にかかわる症状がみられ、直腸瘤があれば、残便感や便意があるのに便が出ないタイプの便秘症がみられます。また下腹部が引っ張られる感じ、下腹部痛などの症状や、膣壁または子宮がいつも脱出している場合には、その部分が下着にすれて出血するなど不快な症状がみられます。症状が進むにつれて外出を控える、旅行やスポーツなども避けるなど日常活動に制約されることが多くなり、QOL(quality of lifeの略。「生活の質」の意)が低下していきます。

3. 骨盤臓器脱の頻度

わが国での骨盤臓器脱の罹患についての統計データはありませんが、欧米の研究によれば、経膣分娩を経験した女性の約3割程度に骨盤臓器脱が見られるといわれます。1997年に発表されたアメリカのOlsenの報告では、米国女性の11.1%が80歳になるまでに骨盤臓器脱または尿失禁に対する手術療法を受けるとされています。
最近でも同様の罹患率を示す報告があります。スウェーデンのSamuelssonは出産を経験した女性の44%に骨盤臓器脱がみられたと報告しています。しかし診察を受けていない女性もそのほかに多数あるだろうと推定されています。骨盤臓器脱の症状で困っていても、恥ずかしさから医療施設を受診できずに悩んでいるのは日本でも、海外も事情は同じようです。

4. 骨盤臓器脱の原因

ヒトが直立して歩行しはじめたことで、内臓の重みを含めた強い圧力が絶えず下方の骨盤にむかいますが、この持続的な圧力は骨盤の骨でいったん受け止められ、さらに骨盤の一番低い部分(骨盤底)に集中して圧迫がかかります。この圧力を支えるために女性の骨盤内は子宮を中心にして線維成分の多い強靭な組織である靭帯と呼ばれる構造があたかも家屋の梁の構造のように縦横にはりめぐらされています。さらに靭帯に加えておもに肛門挙筋levator aniとその他の骨盤底の筋群やそれらを被覆するかたちで骨盤底全体に広くしかれた繊維性のシート状構造(内骨盤筋膜)が骨盤底を支持しています。

ところが、出産のときに、ヒトはその骨盤の大きさから言えばあまりに過大に発育した赤ちゃんを必死で分娩します。その結果として、産道となった子宮の下部、膣、骨盤底の諸靭帯や骨盤底筋は少なからず傷つくこととなります。この傷は産褥期(分娩後1~2ヶ月)にほぼ完全にあるいは不完全に癒えてゆきますが、その後年数を経てさらに閉経を迎えると、女性ホルモンの減少も影響して諸靭帯・骨盤底筋の支持力が全般的に低下して骨盤臓器脱が発生すると考えられます。興味深いことには、日本サルの仲間である赤毛サルは、ヒトと同様にその骨盤骨格の大きさの割には頭部の大きな赤ちゃんを分娩します。この赤毛サルに、骨盤臓器脱のうちの膣脱が観察されたという論文があります。分娩の回数が増えるにしたがい、骨盤臓器脱のリスクは増えるとされ、陣痛が始まる前に帝王切開した婦人よりも、経膣分娩をした婦人に骨盤臓器脱が多いとする報告があります。

加齢にくわえて、高度な肥満、慢性の便秘や、慢性の咳をともなう呼吸器疾患などは骨盤底に加わる腹圧負荷を増強することから骨盤臓器脱発症のリスクを高める要因とされます。近い血縁、母あるいは姉妹に骨盤臓器脱があればそのリスクがたかまるとする報告もあります。

5. 膀胱瘤

膀胱が前膣壁とともに膣口から脱出した状態で、尿がたまったときにより大きく脱出することがあります。この状態を膀胱瘤といいます。膀胱瘤の初期においては、尿道を支える構造が弛緩したことに起因して咳、くしゃみなどで尿漏れする腹圧性尿失禁症状を生じることがあります。
膀胱の下垂・脱出が高度になると多くの場合に尿道の位置も下方に移動して尿道の屈曲を生じ、尿もれの症状がきえ、今度はむしろ尿が出にくい、尿の勢いがないなど排尿障害の症状が出現します。膀胱の膣外への脱出部分がさらに大きくなると、残尿が多くなり、水分摂取するとすぐに膀胱に尿が充満して尿意が出ますので、排尿の回数の増加(頻尿)につながります。またトイレが間に合わないなどの切迫性尿失禁症状も出やすくなります。

6. 直腸瘤

膣入口と肛門は3-4cm離れていますが、肛門から4-5cmなかに入ると直腸になり、直腸壁と膣壁の間には脂肪の層とうすい隔壁があるだけで、直腸と膣はかなり接近しています。分娩後にはこの隔壁はいっそう薄くなっていることが多いです。直腸の壁がふくれて後膣壁とともに膣入口から脱出した状態を直腸瘤といいます。直腸瘤が高度の場合にはこの膨らんだ部分に便がたまり、排便時にいきみをかけても圧力は直腸瘤の部分に作用するのみで、うまく排便できないことがあります。直腸内に残った便は腸表面からから水分を吸収されて硬さをまして、いっそう排便しがたくなり、便秘症状は強くなります。便秘になるとさらに強くいきむので、そのため直腸瘤の脱出がさらに強くなるという悪循環になってしまいます。

7. 子宮脱

子宮の最下端(子宮膣部という)が膣外に脱出した状態をいいますが、子宮のサイズは正常大で子宮の位置が全体的に下垂して脱出している場合と、子宮は本来の位置より下垂しているが、どちらかといえば子宮下部1/3(子宮頸部といいます)が正常よりも著しく延長した結果、子宮の先端が膣外に脱出してしまったという場合があります。
子宮頸部とその前方に隣り合う膀胱は生まれつき密接に接合しています。ですから子宮頸部が膣外に脱出してくると、子宮が単独で下垂・脱出するのはまれで、通常は膀胱もある程度下垂してきます。

子宮脱の症状は、脱出時に膣口周辺の違和感が強く、脱出部の子宮膣部が下着にすれて擦過傷を生じる、出血する、衛生上の問題がある、子宮全体が下方に移動すると下腹部の違和感、下腹部痛などの症状も出現します。

8. 膣断端脱

子宮筋腫などの理由で子宮を摘出したあとに、膣の一番奥の部分が脱出しているものを膣断端脱といいます。しばしば手術で子宮をとっているのに子宮が出てきた、あるいは子宮を摘出しているのに、脱出するはずがないなどという誤解をもたれることがあります。膣断端も支えが弛緩していれば容易に脱出を生じます。

9. 骨盤臓器脱の検査

通常の婦人科内診に加えて、レントゲン検査のなかの一つであるチェーン膀胱尿道造影検査では膀胱下垂の程度を形態的に確認・記録します。膀胱と尿道の関係、膀胱から尿道に移行する部分の形態も確認・記録します。

脱出が強い場合にはやはりレントゲン検査の排泄性腎盂膀胱造影検査が行われます。尿失禁症状が見られるときは必要に応じてウロダイナミクス検査で膀胱の収縮機能をしらべ、単位時間当たりの排尿量を調べることがあります。

10. 骨盤臓器脱の診断・評価

下垂する部位別に膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤などと診断して、つぎに下垂脱出の進行度(程度)を細分して記述します。分類法にはいくつかの種類があります。最近では国際禁制学会が提唱しているPOPQ分類法(stage0からstage4まで分類)が採用されるようになりました。一般に膣入口よりも外側に子宮、膣、膀胱、直腸などが脱出した段階で自覚症状出現してきます(POPQ分類ではstage2以上)。自覚症状出現をまって、治療を開始する考え方もありますが。骨盤底筋体操についていえば、下垂の早期の段階で体操を始めたほうがよいと思われます。

11. 骨盤臓器脱の治療

骨盤臓器脱が軽症の場合、1.下垂はあるものの、もっとも下垂している部分はまだ膣入口よりも内側にあり、かつ下垂の自覚症状(違和感など)を伴わない場合、一定期間の経過観察後に再診か、あるいは骨盤底筋体操の指導が行われます。2.下垂の違和感は強いが、診察時には下垂がみられず、骨盤臓器脱の診断がつけられないことがあります。これは、自覚症状は強いものの、実際には下垂が軽度の場合と、普段長時間の立ち仕事のあとに脱出するとか、外出したあとに脱出するとか、夕方になると脱出するという方で、午前中の診察で診察前にトイレもすませて、椅子にすわって安静にして診察待ちしていたために、脱出するはずのものが、なかに引っ込んでいる場合があります。つまり、脱が再現されなかったというケースです。いずれも、一定期間後の再診となります。脱が再現されなかった場合には、診察前にトイレを我慢するなどの工夫も必要となります。

骨盤臓器脱が中等症あるいは重症となり、前述のような自覚症状も出現し、脱出も確認されて診断がついた場合には、いったん脱出してしまった状態からは復旧することは期待できませんので、まずは根本的な治療として手術療法が考えられます。手術療法には他の多くの施設でおこなわれている従来法によるものと当センターで実施しているメッシュ手術があります。

手術を実施できない状況、たとえば内科的な合併症の治療を優先させる必要がある場合、家庭の事情で入院手術ができない場合、入院手術自体が受容できない場合などでは、一時的な治療としてリング式ペッサリー治療が行われます。

12. 骨盤底筋体操

弱まった骨盤底筋の収縮力をたかめる体操を毎日一定回数行い2、3ヶ月は続けます。子宮脱の初期の場合には有効で、症状を改善または進行を抑える効果があります。また腹圧性尿失禁の軽症の場合にも有効です。

方法は、仰向けに横になって行う方法と、立って爪先立ちの姿勢で行う方法、椅子にすわって行う方法があります。膣から肛門の周辺をしめるように骨盤の筋肉をすぼめる動作をくりかえします。排尿中に尿をとめるイメージで練習するとよいでしょう。椅子に浅く腰をかけて両大腿を強く寄せ付けながらつま先を立てる動作を繰り返すのも骨盤底筋のトレーニングに有効です。しかし短期間での効果は期待できないので、いずれも継続して行う必要があります。

効果が得られるのに時間がかかること、効果の程度には個人差がありますが、骨盤底筋体操自体には副作用はないことから、一度はこころみてよいでしょう。しかし病状が進んだ骨盤臓器脱の場合には効果は期待できません。

詳しくは、以下のキーワードで検索してみてください。

  • 骨盤底筋体操
  • おなかすっきり体操(NHK)

13. リングペッサリー

直径が5cmから8.5cm程度の大きさのドーナッツリング状の膣内挿入器具をリング式ペッサリーといいます。リングの穴の部分に子宮膣部が入るように膣内に挿入します。適合サイズのリングペッサリーが正しい位置に挿入されている場合には、子宮膣部を支持し、脱出をおさえることができます。挿入中の違和感や早期の脱出などリングペッサリー治療に不適合のケースもあり、また長期間挿入したままだと膣の炎症を生じたり、膣壁に傷がついたりといったトラブルもありますので、定期的なチェックが必要です。適合したリングペッサリーを自身で脱着できる場合には有用性がありますが、何らかの条件で手術できない場合など限られた使用、一時的な治療法といえるでしょう。

14. 骨盤臓器脱の手術療法(従来方法)

従来からの骨盤臓器脱の手術療法です。日本では現在も大多数の施設で実施されている方法です。膣から子宮を摘出し、弛緩した膣壁をある程度切除して縫い縮める方法(膣式子宮全摘術と前後の膣壁形成術の組み合わせ)が行われてきました。この方法で治療をすると膣壁を切除しますので膣がせまく、かつ膣の深さも浅くなります。後膣形成術で左右の肛門挙筋を中央で縫合すると、のちに性交痛の原因になることがあります。前膣壁形成術では外尿道口に近くまで切開したのちに膣壁の一部を切除して縫合しますが尿道の下側の筋膜部分も左右縫い合わせますので、術後の排尿機能回復が遅れることがあり、その場合は管で残尿を除く処置が行われます。

術後の性機能に配慮して手術を行うと術後の再発が多く認められます。

15. メッシュ手術の方法

弛緩した膣壁を切開して、前膣では膣と膀胱の間を剥離して、後膣では膣と直腸との間を剥離して、骨盤臓器脱手術専用に開発されたメッシュ(ネット)を膣壁の下におき、補強します。骨盤内の強固な部位にメッシュの一部をとおしてメッシュの位置がずれないようにします。メッシュは過度の緊張がかからないように置かれます。このメッシュ法が画期的なのは、子宮を摘出することなく、膣壁も切除しないことです。そして、手術後に膣の状態が本来の自然な形態に復帰します。術後の排尿機能の回復が早く、術後の痛みが軽度で、子宮を摘出しないことから身体への負担も少ないために翌日には歩行可能で、術後の快復が速やかです。メッシュの強度は永続しますので、従来法にくらべて再発のリスクが少ない点でもすぐれた方法といえます。

骨盤臓器脱に対するメッシュ手術は1990年代の半ばから、フランス、イタリアの医師らによりはじめられ、これまで幾種類ものメッシュの材料、形状、メッシュ挿入部位など試みられてきました。外科の分野でそけいヘルニアに対して多く使用された実績のあるポリプロピレン単糸を素材としたメッシュが骨盤臓器脱の手術で使用されています。化学的に合成されたこのポリプロピレンメッシュは身体の中で分解・吸収されずに残ります、そして膣の壁の一部となって強固な支えの役割を果たします。アレルギーや感染の原因にはならないと考えられます。

16. メッシュ手術の合併症

従来法に比較して、手術時間は短く、術中出血は少ないです。術後排尿障害も少なくなっています。頻度的には少ないのですが、メッシュを埋設して膣を縫合した部分からメッシュの一部が露出することがあります。メッシュびらんといいます。範囲が狭い場合には経過観察中に再度膣壁で覆われますが、時にメッシュの切除、再縫合を要することがあります。メッシュは生体にとり異物ですがそのために感染を生じたりするケースはまれです。

17. 当院での骨盤臓器脱の基本的方針

従来法による骨盤臓器脱手術では再発他の問題があること、メッシュ手術の有用性が優れていることを考慮して、当センターでは積極的にメッシュ手術を実施しています。手術方法にはフランスのコッソンらの手術方法を採用しています。おなかを切らずにすべての手術操作は膣の側から行います。基本的に子宮を摘出せず、膣壁の切除も行わず前後の膣壁にメッシュをおき、手術を完了します。

2007年5月ウロギネセンター開設当初から前後のTVMメッシュ手術(先に図示しています)を実施しています。ただし症例によっては膀胱瘤単独の場合には前膣のメッシュ手術を、直腸瘤単独の場合には後膣のメッシュ手術をおこないます。また子宮頸部が著しく延長しているタイプの子宮脱では子宮頸部の一部切断することがあります。この場合にも子宮の大部分は温存されます。

手術に要する時間は平均すると1時間30分程度、手術中の出血量は100ccから150ccです。麻酔方法は麻酔科専門医による全身麻酔です。身体的な条件などで全身麻酔が不適切な場合には背中からの麻酔(脊椎麻酔)で行われます。いずれの場合でも専門の麻酔科医が麻酔をかけます。

当ウロギネセンターでの手術実績

2007年5月7日から11月30日までの手術件数は以下のとおりです。

骨盤臓器脱のメッシュ手術件数 総計129件

  • 前後分離タイプのTVM手術 90件
  • 前後一体タイプのTVM手術 29件
  • 前膣のみあるいは後膣のみのTVM手術 6件

従来の方法での骨盤臓器脱手術

18. 骨盤臓器脱手術の入院手術から退院まで(入院パス表)

入院時から退院までの予定表です。表のとおり手術の前日に入院していただき手術となります。手術の翌日24時間後には膀胱内に挿入された管(膀胱留置カテーテル)を抜き、室内のトイレ、洗面への歩行が可能です。2日間は室内のみの歩行として3日目からは基本的には病院内の自由歩行となります。7日目に退院前の診察が行われ、翌日退院です。

ここに示したパス表は当院入院時に患者さまにお渡ししているものです。